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13:00 浜田市の火力発電所で、横木侑晟は巨大な機械設備に向き合った。

横木侑晟 株式会社九動

三隅発電所に船で運ばれてきた石炭は、ベルトコンベアに乗せられ、ボイラーへ送られていく。現場では、その石炭を運ぶ設備を「運炭」と呼ぶ。運ぶ炭、と書いて運炭。火力発電所では毎日、耳にする言葉。入社するまで、横木侑晟はこの言葉を聞いたことがなかった。

「入った頃は、わからないことだらけすぎて。何を聞いていいかも、ちょっとわからんくらいでした」

九動は、発電所の設備をメンテナンスする会社である。横木が勤める三隅営業所は、浜田市の三隅火力発電所の敷地の中に営業所を構える。設備のほぼすべてがオーダーメードで、メンテナンスの際には、数千ものパーツをバラバラに分解、点検をする。タービンや発電機、ポンプ、バルブ、コンベア、石炭をすりつぶすミル。火力発電所を動かす複雑な機械すべてがスムーズに動き続けることで、人々の暮らしは成り立っている。家の灯りも、工場のラインも、病院の機器も、横木が行う日々の点検とつながっている。

入社すぐに横木が担当したのは、コンベアのローラー交換だった。船着き場から伸びるコンベアの一部、200メートルほどの区間で、古いローラーを外し、新しいローラーを取り付けていく。近くまでは台車で運べても、最後は人の手で持ち上げる。その重さと地道さが、入社当初の横木にはこたえた。

「身体を使う仕事なんで、体力は使います。慣れないうちは、緊張もあって疲れました。その日が無事に終わればいいなと思いながら仕事してました」

浜田市で生まれ、高校に上がる頃に三隅へ引っ越した。高校の職場見学で九動を知り、機械を分解したり組み立てたりする仕事が面白そうだと思った。配属された三隅発電所は、子どもの頃に祖父母と公園へ遊びに来た場所でもあった。

最初の頃は、叱られることもあった。安全が何より大切な現場だ。責任は大きい。ときどき、精神的にくたびれる日もあったが、20代の多い職場で、同僚たちと話す時間が支えになった。仕事の後に集まって、その日あったことを話す。何かが解決するわけではないが、同じように悩む仲間がいれば、なんだかんだ笑っていられた。

「同じ年代の同僚と話せるだけで、違いました。分かり合えるんで。2年に1回社員旅行があるんですけど、そういうのも楽しいです。前は北海道に行きました。旅行で仲良くなった人は、次に現場で会った時にも仕事しやすいんで、自分はそういう付き合いとかは、嫌いじゃないです」

仕事は、現場の中で覚えていった。先輩や上司の動きを見て、見よう見まねで手を動かす。発電所のメンテナンスは、同じことの反復ではない。毎回少しずつ違うことが起こる。初めて向き合う不具合もたくさんあるし、毎回頭をひねり、工夫する。熟練の先輩が悩みながら作業の進め方を考える姿を見て、成長には限界がないとも思う。

身体を使う仕事なので、へとへとになる日もある。けれど、汗をかいて、手を動かして、目の前の機械が少しずつ元の形に戻っていく時間には、机の上だけでは得られない手応えがある。その疲れの中に、今日もちゃんと働いたという、静かな心地よさが残る。

8年目の今、横木は副主任として働いている。自分で作業をするだけではなく、人に指示を出す立場でもある。どの順番で進めるか。誰に何を頼むか。作業員だった頃には見えなかったことが、少しずつ見えるようになってきた。

「自分が思い描いていたとおりに作業が進んだり、人に指示できたりして、その作業が終わった時とか、感じることはありますね」

メンテナンスの仕事は、新しい建物が立つわけでも、目に見える商品ができあがるわけでもない。分解した機械を手入れし、ローラーを替え、バルブを点検し、必要な部品を直して、もう一度組み上げる。試運転で問題なく動く。その時、ようやく仕事は静かに終わる。何も起こらず、発電所が動き続ける。その当たり前の裏側に、人の手がある。

「でも、まだ未熟者なんで」と横木は言う。これからは、後輩に教える側にもなる。感情的にならずに、自分が知っていることを教えてあげたい。それが目標だという。

仕事が終われば、家に帰る。飼い犬のレオンとジャンの声が聞こえる。風呂につかって夕食を取り、好きな映画やドラマを見て、眠る。休日には最近買った車で広島までドライブする。

将来のことを聞くと、横木は少し考えてから言った。

「健康でいられればいいかなと思ってます。あんまりないです。ごめんなさい」

いいことを言おうとしない人の言葉は、かえって信用できる。地域の暮らしを支える火力発電所。その奥で、機械の動きを確かめているのは、少し口下手で、真面目な人だった。

PROFILE

株式会社九動

横木侑晟 Yusei YOKOGI

2001年浜田市生まれ。江津工業高校卒業後、九動に就職。地元の三隅営業所に配属される。現在は同営業所の副主任として、火力発電所内の運炭設備や発電機などのメンテナンスに携わる。

COMPANY PROFILE

1962年創業。中国地方の火力・原子力発電所に事業所を置き、発電設備の分解点検・修理を手がける。浜田市の三隅発電所でも、タービン・発電機などのメンテナンスを通して電力インフラを支える。