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7:40 米子市の風景の中で勝部拓也は高校生の頃を思い出していた。

勝部拓也 ALSOK山陰

「何のために?」そう問われた時、勝部拓也は間髪入れずに答えた。「勝つためです」。大社高校の剣道場だった。しかし顧問は首を振った。「そうじゃない。勝負を通して自分を高めるためだろう」。当時はその言葉の意味が、すぐにはわからなかった。

松江市で生まれ育った勝部は、子どもの頃から負けず嫌いだったと振り返る。

「思ったことは簡単には曲げない子だったと思います。人とぶつかることも多かったですし、親には心配もかけました」

そんな勝部が打ち込んだのが剣道だった。稽古に明け暮れ、将来は警察官になろうと考えたが、生来の弱視が理由でかなわなかった。

進路に迷っていた時、声をかけてくれたのが地元の警備会社に勤める、剣道部の先輩だった。警備の仕事に特別な思いがあったわけではない。ただ、信頼する先輩からの誘いだった。「夢とか目標があったわけじゃないんです。せっかく誘ってもらったから、やってみようかな、というくらいでした」

十八歳でALSOK山陰に入社、機械警備隊に配属された。仕事は思いのほか肌に合った。体を動かすことは嫌いではない。現場へ駆けつける緊張感もあった。

ある日、高齢の契約者から通報が入り、自宅へ向かったことがある。室内に入ると、その人はうつ伏せで倒れ、自力で動けない状態だった。

「あと少し遅れていたら危なかったかもしれないと言われました。『命の恩人だ』って言ってもらえたのは今もよく覚えています」

三年が過ぎる頃には、すっかり仕事にも慣れて、自信もついた。周囲からは順調に見えたし、頼られることも多くなった。けれど本人の中には、どこか落ち着かない気持ちがあった。

「仕事に慣れて余裕が出てくると、もっと大きな世界で、自分の可能性を試したいと、そういう気持ちが出てきたんです。」

自分の居るべき場所はここなのだろうか。もっと成長できる環境があるのではないか。順調な時こそ、そんな思いが頭をよぎるのだった。

会社から営業職への転属を告げられたのは、そんな時だった。異動先は浜田支店。出雲を離れ、知り合いもほとんどいない土地だった。

「驚きました。でも、一回くらい新しい環境に飛び込むのもありかなと思ったんです」

ところが現実は甘くなかった。訪問しても断られる。契約は取れない。数字は伸びない。機械警備隊時代に感じていた自信は、あっという間に崩れた。

「焦るんです。結果を出さないといけないと思うから。でも焦るほど、うまくいかなくて」

売り上げが欲しかった。契約が欲しかった。そのことばかり考えているのに、なぜ結果が出ないのか。勝部は上司の仕事をよく見るようになった。すると、不思議なことに気づいた。

「自分は数字を見ながら、対策を考えて動いていました。でも上司は何か違ったんです」

何が違うのだろう。そう尋ねると勝部はしばらく考えて、ぽつりと答えた。

「相手のために、動いていたんですよね」

雑談をする。困りごとを聞く。相談に乗る。契約の話はせず、そのまま帰ることもある。効率が悪いようにさえ見える、数字に直結しない時間に、何かがあるのかもしれない。そう考えた勝部は、契約を急ぐことをやめてみることにした。まず話を聞くようになった。困っていることがあれば一緒に考えるようになった。働き方を変えたからといって、現実はすぐうまくいくわけではなかった。ただ、ひとつだけ変わったことがあった。

「仕事が、少しずつ面白くなっていったんです」

最初は言葉や気質の違いに戸惑った浜田の人たちとも、気づけば打ち解けていた。

「怖そうな人が多いのかなと思っていました。でも全然違いました。裏表がなくて、面倒見がいい人ばかりで」

可愛がられた。助けられた。営業を教えてもらった。浜田は好きな街になっていた。気づけば、契約は増えていた。

現在の勝部は米子支店に移った。新しい市場を切り拓く役割を期待されての異動だったが、表彰を重ねる成績で会社の期待を超えている。

営業車で米子の街を走っていると、ふと建物に目が留まることがある。

「あそこもお客さんなんですよ」そう言って窓の外を見る。以前なら、ただの建物だったかもしれない。けれど今は違う。その会社で働く人の顔が浮かぶ。相談を受けたこと。雑談をしたこと。一緒に考えたこと。そんな記憶が自然とよみがえる。

「仕事で、自分も変わったと思います」と勝部は言う。

高校時代、顧問から投げかけられた言葉が今もときどき頭をよぎる。「勝負を通して自分を高めるためだろう」。前は勝つことがすべてだと思っていた。けれど今なら、その意味⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠がわかる気がする。

「山陰が好きです。山陰の人が。仕事を好きになれた今は、はっきりそう思います」と言って勝部は笑った。

PROFILE

ALSOK山陰

勝部拓也 Takuya KATSUBE

2001年島根県松江市生まれ。小学4年生から剣道を始める。大社高校卒業後ALSOK山陰に入社。出雲支店の機械警備隊で4年間勤務。浜田支店での営業を経て、現在は米子支店で法人・個人へのセキュリティサービスの提案営業を行う。

COMPANY PROFILE

2004年設立。松江に本社を置き、山陰各地に拠点を展開するALSOKグループ企業。機械警備・常駐警備・警備輸送・綜合管理・防災を通じ、地域の安全・安心を支えている。