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12:04 益田市の改修現場で上田一陽は妻の手づくり弁当を取り出した。

上田一陽 大畑建設株式会社

益田で暮らす人なら知っている場所がある。消防署。自動車学校。誰かが働き、誰かが通い、街の中に当たり前のように立つ建物。上田一陽が関わっているのは、そういう場所をつくる仕事だ。

まだ壁も扉もない空間に、上田は線を引く。現場では「墨出し」と呼ばれる工程だ。

「ほんとミリ単位の世界なんです。狂いがあったら、扉が入りませんとか、そういうことになるので」

図面を見ながら、床に印を落としていく。何もない床に引かれる一本の線から、上田は未来の風景を想像する。ここに間仕切りが立つ。ここに機械が入る。ここに扉がつく。そこで働く人たちの姿を思い浮かべる。その最初の位置を決めるこの仕事を上田は面白いと感じている。

上田は益田で生まれ育った。建築に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に見た実家のリフォームだった。見慣れた家が変わっていく光景が、頭に残った。

「職人さんが作業しているところを見て、ものづくりの良さを感じたんですよね。壁を張ったり、床を張ったり、古いものがきれいになっていくのが面白かったんです」

高校を出て、広島の大学で建築を学んだ。就職では益田へ戻ろうと思った。

「都会より、地元の益田の人との距離感の方が自分には合っていると思いました。田舎ですし、すごいのびのびできるっていうか」

大畑建設のことは以前から知っていた。父親がグループ会社で働き、高校の同級生の父親も同社にいた。地元だけあって、益田では人と人のつながりが近い。会社も、仕事も、遊びも、誰かがどこかでつながりあって、暮らしが営まれている。そうした安心感の中で働くことは、自分に合っているように思えた。それに、大畑建設の雰囲気は温かく、上司も優しかった。

とはいえ、仕事の実務は難しいことも多かった。

「入社して間もない頃は、道具や材料の名前も、専門用語も、ほとんどわからなかったので戸惑いました。例えば、一輪車のことを『ネコ』って言ったりするんですよ。現場で『ネコ取って』と言われても、『え、どこに猫がいるんですか?』って。それくらい何もわからない状態から始まりました」

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学校で学んだ建築と、実際の現場は違っていた。知識や確認が足りず、作業に手戻りを発生させてしまったこともある。職人に叱られた時は、深く反省した。

それでも任される仕事が増えるにつれ、できることも増えていった。短い工期の現場では、多くの職人が一度に入り、複雑な作業を同時進行する。材料を運ぶ時間、作業する場所、順番。詰まりがないように頭をひねるのが、現場監督である上田の仕事だ。どこかひとつ間違えば、全体が崩れていく。

なにかトラブルがあった時に助けてくれるのは、人とのコミュニケーションだった。仕事の話から入り、少しずつプライベートなことも話せるようになっていく。普段の関係があれば、問題が起こった時も自然に相談しやすくなる。

「でも、もともとは人見知りなんで、話しかけることは苦手でした。そうは言っても、人を避けていては仕事は面白くならないし、ぐじぐじ悩んで年数だけ重ねていくのも嫌だったんで、自分から話しにいってみようと思ったんです。声をかけてみたら、みなさん優しかったです。自分の方で距離をつくっていただけなんだなって。人と向き合う大切さが身に染みて分かりました」

今は、事務的な仕事がないときは基本的に現場にいる。職人の作業が終われば見回りをし、事務所に戻って内業をする。叱られて、立ち尽くしていた場所が、自分の居場所になった。

「僕は、現場にいることが好きなんです」

上田はそう言って笑う。

印象に残っている現場がある。2年目の時に関わった、益田の消防署だ。地元の複数の建設会社が一緒になって建てた、大きな仕事だった。完成した後、そこに消防車が入り、人が働いているのを見た時は、なんとも言えない気持ちになった。

「人が使っているのを見ると、やっぱりやってよかったなって思います。自分が関わった建物が、これから益田の街で使われていくんですよね」

今年の夏から、上田が初めて現場を仕切る仕事が始まる。自動車教習所の改修工事だ。益田の人の多くが免許を取る場所。県外からも人が集まる場所。地元でよく知られたその建物に、つくる側として関わる。

「不安しかないです」と上田は言う。けれど、言葉はそこで止まらない。「プレッシャーはありますけど、なんとかやってやろうと思います。楽しみです」

かつて何もわからず立っていた現場に、最初の線を引くことを上田は楽しみにしている。

PROFILE

大畑建設株式会社

上田一陽 Kazuhi UEDA

1999年益田市生まれ。益田東高校を卒業後、広島の大学へ進学し建築を学ぶ。大学卒業後、2022年に地元島根の大畑建設へ就職し、施工管理の仕事に打ち込む。

COMPANY PROFILE

1953年設立、島根県益田市に本社を置く総合建設会社。建築、土木、港湾、造園などを幅広く手がけ、公共施設や地域の人々が使う建物を通して、益田の風景をつくっている。