13:30 前田晴菜は益田市の三隅・益田道路をゆっくりと通過した
前田晴菜 高橋建設株式会社
ドローンが高度を上げていくと、工事現場の全体像が画面に姿を現す。道路の線形や、日々変わっていく地面の高さ。カメラを傾ければ、最近開通した三隅・益田道路や、高津川が流れ込む日本海も見えるだろう。上空から益田の風景を眺めるたび、前田晴菜はいろいろなことを思い出す。
前田は益田で育った。父は鮎釣りが好きで、夏になると高津川の上流まで連れていってもらい、川で泳いだ。小学生の頃からお菓子作りをすることもあった。
高校卒業後は、県外で製菓を学ぶ道も考えたけれど、地元を離れる選択はしなかった。
ある時、家族で食事をしながらテレビを見ていると、地元の建設会社で働く女性が映った。建設業は男性の仕事だと思っていたけれど、そういう道もあるのか。そう思った前田は、求人に応募してみることにした。それが、高橋建設との出会いだった。
本人は事務の仕事を想像していた。事務所で書類をにらみ、画面上で数値を計算する、そういう仕事だと。しかし、入社して間もなく、前田に渡されたのは作業着だった。
「それを着て、先輩について土木工事の現場で施工管理の補助をすることになりました。施工管理の補助です。びっくりしました。デスクワークだけじゃないんだって。でも、その現場が楽しかったんです」
現場に出て、安全・出来形や品質等の管理を行い、役所の立ち会いに対応し、その結果をもとに書類を作る。書類仕事が中心とはいえ、終日デスクに張りついているわけではなかった。
現場では先輩や現場の作業員たちが仕事や昔の現場の話を聞かせてくれた。工事が終わるたび、その場所に人や仕事の記憶が残っていくことにも、やりがいを感じた。
もちろん、楽しいことばかりではない。仕事に慣れない頃には、作業の手違いで発注者に叱られたこともある。「あまり笑わない人で怖かったです」と前田は今では笑って話すが、当時は落ち込んだこともあった。
「でも、自分がちゃんとしてなかったのが悪かったので。次はちゃんと確認しようと思いましたし、仕事への責任感は強くなったかもしれません」
つらい時は母に話し、泣いて、ごはんを食べて、よく眠る。そうして少しずつ気持ちを切り替えてきた。
仕事の転機になったのは、三隅・益田道路の工事だった。
2026年3月に開通した三隅・益田道路。その建設工事の一部を高橋建設が請け負った。責任者の先輩は真面目だが、最初は何を考えているのかわからなかった。忙しい現場で二人はすれ違い、会話が少なかった。
前田は思い切って、「もう少し相談する機会を増やしたいです」と伝えた。それから少しずつ会話が増え、仕事の進め方や考え方が似ていることもわかった。互いに相談しながら進めれば、仕事はずっとスムーズになる。前田の働きかけをきっかけに、先輩の接し方も変わり、前田自身も相談することの大切さを学んだ。その変化が面白かった。
「一番勉強になった現場だったと思います」
三隅・益田道路は、地域の人たちが開通を待ち続けた道でもある。家族や知人から「いつ通れるようになるの」と何度も聞かれたし、開通してからは「東部に行くのが楽になったよ」と言われる。今では前田自身も、その道を車で走る。通るたび、現場で交わした会話や、苦労した場面が浮かぶ。
建設現場には重いものを扱う場面も多く、女性には体力面での難しさもある。けれど、ICTや新しい技術が広がれば、活躍できる場面は増えていくだろう。上空から進捗を確認するために前田が扱うドローンもその一つだ。
「技術の進歩で、できることが増えていくのも楽しみですし、今は現場のことをもっと覚えたい気持ちが強いです」
仕事を始める前、益田はただの田舎に見えていた。けれど、自分が関わった道路がつながり、人の流れが変わっていくさまを知るうちに、見え方が変わった。
「益田は、これから活気づく準備をしている街なのかなと思います」
お菓子を作りたかった高校生は、思いがけず作業着を着て、地元の風景を作っている。
PROFILE
高橋建設株式会社
前田晴菜 Haruna MAEDA